コロナ後、今後10年の音楽業界動向について②

皆様こんにちは!Producing office SOLEIL杉山薫です。
前回のColumnでは日本の音楽業界がコロナで大打撃を受けてしまった
経緯についての見解を書きました。

前回のColumnはこちら
コロナ後、今後10年の音楽業界動向について①

コロナが起きる前からすでに音楽の質よりも話題性や、
音楽以外の副産物で利益を作る傾向にあった中、
良い音楽を作りたいと願い、作品を創ってきた人達は
どのような行動を取ったのでしょうか。
そもそも、J-POPと言うジャンルが非常に分かりにくい理由も含めて、
掘り下げて行きます。

 

なぜ、ポピュラー音楽の品質の定義は曖昧なのか

クラシック音楽、芸術音楽は理論が無いと曲が作れず、
ポピュラー音楽は作曲の才能のある人達がひらめきによって曲を書く
と言うのは誤解で、現代でポップスとしてリリースされている楽曲も
様々な技法を駆使した作品達があることを、
私はここ数年作品分析をする中で学びました。

先日ある楽曲のアナライズをした際、小節、いえ、1拍単位で
コードの変化、しかも通常で考えられる進行とは異なる
理論の裏を突くような意図的な展開の数々に、
私は半ばギブアップ状態になってしまいました。
その曲はプロの作曲家の中でも凝った作品を作るのが好き、売りだと言う
作家さんの作品で、それを承知の上で譜面と向き合うことにしましたが

これだけ理論武装している楽曲を、果たしてポップスと呼ぶべきなのか?

そう、疑問に感じました。
結果としては、存命している作曲家がJ-POPカテゴリでリリースしていれば
それはどんなに理論武装してもポップスだと言うことでしたが
今現在のJ-POP(ロックバンドも含む)と言うジャンルは

①調性音楽である
※無調音楽でもリリース自体は出来ますが、一般的なリスナーの耳には
なじまないため、ヒットチャートの上位に入ることは難しいです
②オペラのような腹式発声ではなく、喉とお腹両方を使った発声法で歌っている
③日本語の歌詞がメイン

この3つの条件が揃った曲であれば、形式上はJ-POPと言うカテゴリに該当し、
音楽理論を考慮した上で作った曲なのかは論点ではないのが現状です。

私がアナライズした楽曲も、タイアップや話題性で
ある程度のセールスにはなったものの、それらが無くて
単純に楽曲の評価だけなら玄人向けすぎて
ヒットチャートに入ることは難しいものでした。

余談ですが、同じ作家さんのアレンジした曲で
私がアナライズした曲よりも更に音楽理論武装していると言う曲を
先生から教えてもらいました。
その曲は、歌っているアーティストは皆さん知ってるレベルで
紅白歌合戦にも何度か出場している人のものでしたが
私には難解すぎてついていけなかったのと、
その曲は、私には無調音楽に聴こえました。。。
※今、もう一度改めてその曲を聴いてみたら
さすがに無調ではないものの、明らかに一般のポップスとは
一線を画するアレンジでした。

 

全然違う喩えですが

夏の必需品でもあるアイス、あれは
乳固形分・乳脂肪分の比率によって
アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓
とそれぞれ名称が異なるそうです。

グリコさんのこの解説が分かりやすいので
リンクを貼ります。

アイスクリーム・アイスミルク・ラクトアイス・氷菓の違いってなに?
https://www.glico.com/jp/health/contents/icefaq/

厚生労働省が
乳固形分15.0%以上 乳脂肪分8.0%以上のものをアイスクリーム
乳固形分10.0%以上 乳脂肪分3.0%以上のものをアイスミルク

とそれぞれ定めているそうですが
音楽、中でもポップスの場合は
アイスで言うところのアイスクリームに該当する曲も、氷菓の曲も、
全部ひとくくりにポップスと言ってしまっている状態です。

アイスクリームはハーゲンダッツ、氷菓はガリガリ君でしたら
どちらが良い悪いではなく、食感や味の違いは
私達も食べれば分かりますが、
品名のところにアイスクリーム、氷菓、と書いてあるから
私達はこれを分類上のアイスクリーム、氷菓であると認識します。

ですが、音楽の場合は
品名のところが全てJ-POPとなっているため
なんとなくは分かるけども
アイスで言う乳固形分が15.0%以上の曲なのかまでは
ただ聴いているだけでは分かりくいです。

また、ポップスやロックの定義もあいまいで
エレキギターがメインで鳴っていて
バンドスタイルで演奏されているとロックっぽい
ポップスはもう少しバンドが控えめで
他にもシンセ音が入っていて、全体的に軽い感じ。。。

と言うくらいです。
その中で好みもありますが良い曲は良い、
好みでない曲は好みでない、食べ物でも同じです。

食べ物の場合は
安い食材を使った料理と、高い食材を使った料理は値段が違うので
高級な料理を食べたい人が料理を選ぶ判断基準として
値段で選ぶことが出来ます。
しかし音楽の場合は
少なくとも音源についてはほぼ一律で価格が決められているため
高級料理を食べたい人が、値段で識別するようなことが出来ません。

そうしたこともあり、高級料理を食べたいと思っても
値段で判断が出来ないので、お店の看板と、実際の味見とだけで
なかなか好みのお店を見つけられないようなケースが
音楽リスナーの場合は発生してしまいます。

ライブに関しては、チケット代と言う判断材料がありますが
ライブのチケット代は楽曲そのものに対する制作費よりも
ライブの演出に対する制作費が主のため、
これも音楽の質とチケット代は比例していません。

やはり現時点では
感性に合うか以外の部分で音楽の質を判断するためには
自身で音楽に対する知見を増やしていくしかありません。

 

今後10年で、J-POPは音楽と娯楽でジャンルが二分化される

そんな、高級料理と大衆料理の違いが分かりづらい日本のポピュラー音楽ですが
高級料理な作品を目指しているアーティスト、スタッフ達はいます。

そしてこれが最近私が1番感じる時代の波です、
以前は子供の英才教育と言うと、ピアノやヴァイオリンを習わせて
クラシック音楽をさせると言うのがセオリーでしたが
最近は英才教育としてクラシックではなくポピュラー音楽を学ばせる家庭も
現れるようになりました。

多くは1970年代以降、ポピュラー音楽シーンに貢献してきた
アーティスト、音楽関係者の子供達ですが
中には親御さんが音楽関係者ではなくても、子供の英才教育で
ギターやドラムを習わせる家庭もあります。

英才教育のひとつとして
ポピュラー音楽を幼いころから教育された子どもたちについては
ネットで検索すれば何名も出てきます。
小さいころからそのような環境に身を置くと、吸収も早く
私では理解出来ないような難解なフレーズをいとも簡単に弾いてしまったり
とにかくすごい、のひと言です。

ただ、言い換えると、これらは時々見かける
小学校低学年でショパンエチュードの黒鍵をインテンポで弾けてしまう
子供達のスキルと近しいものです。
クラシック音楽を速く弾く子供はチラホラ見かけても、
エレキギターやドラムをショパンエチュードレベルで弾ける子供の方が
数で言うと、まだまだ圧倒的に少ないため余計に今は注目されていますが、
もう10年、20年経ち、親が音楽関係者ではない家庭の子供でも、
教養の選択としてクラシックもポピュラーも気軽に選べるような時代になれば
天才ギター、ドラム少年と言う子どもたちも今ほどは珍しくなくなります。

幼いころからポピュラー音楽を教養として学び、技術を身につけてきた
子供達が大きくなり、プロの音楽家を目指すようになった時、
言葉は悪いですが、中学高校でバンドを始めた人達とは
スキル面は雲泥の差です。これから幼少期から電子楽器に触れてきた
子供たちがあふれるようになったら、今のクラシック音楽同様
プロデビューする基準がクラシックで言うところの
モーツァルトやベートーヴェンソナタレベルのポップス、ロックが出来る人でないと
審査に受からなくなります。

そうした英才教育を受けた子供たちの先駆者にあたるのが
私の知っているアーティストでは宇多田ヒカルさんやONE OK ROCKのTakaさんですが
宇多田さんやTakaさんのような環境を持って生まれた人でないと
プロになれなくなってしまうのであれば、その時点でその音楽はもはや
ポピュラー音楽(大衆音楽)ではなくなってしまいます。
ポピュラー音楽は皆が気軽に聴けるだけでなく、
音楽家が両親の家に生まれていない人達でも成功のチャンスはあるべきですが、
幼少期からみっちり教育を受けた人と同等にやり合うには
相当の努力が必要となります。

厳密に言うと、今でもそうした、幼少期から教育を受けてきたアーティストと
ある程度の年齢になって、自分の意思で音楽を始めたアーティストとの問題は起きています。
ですが演奏と言うのは技術さえあれば良いものではありません。
その人の人生の写し鏡が演奏であるので、
人を感動させる演奏をするには、技術だけでなく人間力も必要です。
速く弾く技術だけなら、今は機械で人間の手では不可能な速さでも
音を出してしまうので、速く弾ける、上手に弾けるだけでは
プロとして活躍するのは難しい、だから楽器を始めた年齢が幼少期でなくても
人を惹きつけ、魅了する演奏家がいて、他にも様々な要素を総合して
ポピュラー音楽は楽しむものになっています。

今のJ-POPは8割型演奏技術以外も含めての評価なので
予算ありきで作った曲も、純粋に作品のクオリティにこだわった曲も
一律でJ-POPと言っています。
ですがこの先英才教育型のアーティストが4割、5割、となってきたら
彼らは彼らで、娯楽音楽とは別で独自のランキングを作りたい
と言う声が上がってくるはずです。
そうなった場合、J-MUSICと呼ぶのか、名称は分かりませんが
新たなジャンルが出来るか、新ジャンル設立には至らなくても
きちんと音楽をやっているアーティストなのか、
エンタメの手段として音楽を使っているのかは、今より明確になるでしょう。

どんな作品であってもそれは制作者の思いがあって
それだけでも価値のあるものだとは思っていますし、
音楽はクラシックでもポピュラーでも、ジャズでも民族音楽であっても
良い作品にジャンルは関係ないし、ジャンルと言う先入観ではなく
楽曲の質で価値を判断出来る自分でいたいと思ってはいます。
ただ、商業音楽は商売なので、中には申し訳ないですが中身の薄い曲
と言うのも存在します。

全員ではないものの、たまにクラシックの音楽家で
ポピュラー音楽と言うだけで聴かず嫌いをしてしまう人がいます。
彼らの主張は、大衆音楽は芸術音楽にあらずと言うものですが
意外なことに、中身の薄い一部のポピュラー音楽と言うのは
ポピュラー音楽の音楽家達からもまた、つまらないものと思われているのです。

商売である以上予算があるのも仕方ないし
いくら同じプロと言えども、幼少期から楽器に触れている人と
中高生になってから楽器を始めた人に同じ演奏技術は求められません。
ですが、音楽を単なる儲けの手段としか考えていなかったり
作品に対して手を抜いてしまう人は、どのみち生存競争は厳しいものでしたが
コロナで環境が一変してしまった今、
質の高い音楽を作ろうと努力出来ない人が淘汰される傾向は
一気に強まってしまったことでしょう。

クラシック音楽、芸術音楽で言う現代音楽とは別の、
調性音楽で、エレキ楽器やドラムを使うジャンルでも
作品の質を求める音楽家達のジャンルが10年後には出来ているかもしれません。

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