楽曲がヒットする理由について⑤

皆様こんばんは、Producing office SOLEIL杉山薫です。
緊急事態宣言が出て、大変な状況ではありますが
こんな時だからこそ出来ることもあるので
頑張ってくださっている医療チーム、政治家等々の人たちに
迷惑をかけないように気を配りながら、思考回路だけはアクティブに
行きたいと思います。

今日は楽曲がヒットする理由について、5回めのColumnを書きますね。

前回までのColumnはこちら
楽曲がヒットする理由について①
楽曲がヒットする理由について②
楽曲がヒットする理由について③

楽曲がヒットする理由について④

 

ヒットすることと、10年後に残る曲は別のこと

今回のColumnでは何度も「ヒットの要素は楽曲の良さだけではない」と
お伝えしてきましたが、ヒットチャートの上位に食い込むだけなら
楽曲の加点が低くても、マンパワーがあれば出来てしまいます。
ですが、どんなに一瞬のヒットを作ったとしても
10年後も残る曲、愛される名曲となるかは全く別のことであり
10年後も残る曲となるかは、純粋に楽曲のクオリティにかかっています。

 

先に答えを書きますと
私がここ数年楽曲をアナライズしてきた中で
ヒットメーターのうち、楽曲構成点が高かった曲をいくつかご紹介します。

①「アナと雪の女王 MovieNEX」レット・イット・ゴー ~ありのままで~/エルサ(松たか子)
<日本語歌詞付 Ver.>(2013年)


この曲は、皆様もご存知かと思いますが
どこか不思議な感じがする、普通の曲と違う感じがすると
思われた方も多いのではないでしょうか。
この、「不思議な感じ」を作り出すためには
数々の音楽的手法が使われており、
映画の規模、タイアップにふさわしい良質な楽曲が制作されたため、
なるべくしてなったヒット曲と言えます。

 

②ゴールデンボンバー「女々しくて」Live 2012/1/15 日本武道館 (2009年)


おなじみのMVは皆さんご存知だと思ったので
ライブバージョンをリンク貼ってみました。
女々しくては先程のありのままでとは違った視点で
とてもよく作り込まれている曲です。
曲を最後まで聴けば「女々しくて」のフレーズは
口ずさめるようになるほど印象に残らせるメロディーの作り方が秀逸です。
この曲は踊りも含めて、誰でも簡単に口ずさめて振り付けが出来、
そして印象に残る曲は、簡単に作れるものではありません。
替え歌がいくつか作られていると言うことも、
この曲の認知度、愛され度を象徴しています。

 

③WANDS/世界が終るまでは…(1994年)


こちらは公式が無くなっていたため非公式動画ですがリンク貼っておきます。
なんと言ってもこの曲はSLAM DUNKのイメージが強いので
アニメ映像の動画とどちらを貼るか迷いましたが、
今回は”楽曲”にフォーカスを当てたいため、アニメでないMVの動画にしました。
この曲は、聴いているだけでも綺麗ですが、
譜面として見ると一層メロディーの綺麗さが分かる曲で、
作曲の「教科書」のような曲”と言っても過言でありません。
ボーカリストの歌唱力の高さが論点に上がることが多いですが、
楽曲自体も素晴らしいものです。

 

楽曲の加点が高いこと+その他のヒット要素にも恵まれた曲が残る

前回作ったランキングの中で、私が考える10年後に残る”可能性がある”曲を
黄色で示してみました。皆様の考えた答えとの違いはいかがでしょうか。

補足をします。
今回は、10年後も残る可能性がある曲に焦点を絞るため
楽曲が◎になっていない曲は、その時点で対象から外します。
そうすると、
1位、7位、8位、9位 が候補として残ります。

では、なぜ楽曲が◎であるにも関わらず、8位、9位の曲は
私が候補から外したかですが
これは、3回めのColumnで書きました、ジャンル、マーケットの規模が
関係しています。

9位のヴィジュアル系バンドIの曲、
ノンタイアップであるにも関わらず、ランキング10位圏内に入り
そしてルックス、演奏技術、楽曲3つの項目全てが◎になっています。
点数化だけで考えれば10曲の中で最も点数は高くなりますが
ここで、それぞれのCDを買った客層が誰なのかが影響してきます。

こちらのスライドでは楽曲の加点が◎だった4組のうち
購入者の割合と、翌週以降の売上予測をグラフにしてみました。
①男性アイドルグループAと②男性デュオGは
購入者のうち、FCと一般がおおよそ半分ですが
③女性声優Hと④ヴィジュアル系バンドIはFC会員の比率が多く占めています。

実際のランキングでもたまに見かけますが
発売初週だけランキングに入っているものの
翌週になるとガタっと落ちてしまうパターンは
いわゆる「信者」の人たちが発売日には買ったものの
それ以外の層へは知られていないため、翌週以降伸びません。
そのため、ひとくちに3万枚の売上と言っても
そのアーティストの作品を買ってくれそうなマーケット層の
大半が買った上での3万枚と、
翌週以降購入の可能性がある人達が10万人いる中での3万枚では
伸びしろがまるで違ってきます。

ヒットを起こすためには、こうしたコアファン以外の層の
心を掴むことが絶対条件で、上述した3曲などはまさに
コアファンでない人たちでも聴いたことがある、
嫌いじゃないと言われている楽曲たちです。

ちなみに、『女々しくて』に関しては
元々FCと一般の購入層が9:1のジャンルであるにも関わらず
比率が逆転して一般層への認知が広がり、
ヴィジュアル系音楽が本来持っているマーケットの枠を超えて
楽曲が浸透したため、今日に至る訳でありますが、
本来コアファンにしか受け入れられないジャンルなのに
その常識を変えたことには、きちんとした理由がある
と言うことは、作品を分析すればおのずと見えてきます。

 

良曲は世に出ている。ただ、その曲と出会えていないだけ。

日本の音楽シーンが面白くない、昔は良かったのに
と言うような意見は多く聞きますし、私もそうした意見を
真っ向否定する訳ではありません。
元々はプロの作家しか世に作品を出せなかったものが
時代とともに、歌い手が曲を書けることが素晴らしいと言う風潮になり、
特別作曲を専門に勉強した訳ではない人達が作ったものでも
プロのアレンジャーが手を加えることにより
世の中に出回るようになりました。

その後、You Tubeやニコニコ動画、宅録技術の進歩により
今ではメジャーレーベルと呼ばれる会社と契約を結べない人でも
誰でも自分の音楽を発信出来る時代になりました。
そんな中、音楽の販売を商売とする会社がどのようにして
ブームを作ってきたかについては、また機会があった時に
書けそうなら書きますが、現代でも音楽を学び、
良い作品をリリースしているアーティストは、
何も芸術音楽と言われるクラシック音楽の延長の分野でなくても、
確実に存在しています。
ただ、そうした作品に対して、日本全国の皆が聴く機会となるような
タイアップがつかなかったり、私達聴き手の方が、実はその作品を
聴くキッカケを知らず知らずのうちに遮断しており、
良い作品を聴く機会が無いだけの話なのです。

ですので、最近の音楽シーンが物足りない、
ピンと来る曲と出会えていないと言う人は、ぜひ
ご自身の好みに合う作品との出会いを探しに出てみてください。
人づての噂でも、ストリーミングシャッフルでも
貴方がイメージする、好みに合う作品を探し求めれば
きっと聴くご縁がやってきます。

 

事前の予想を超えて5回に渡り楽曲ヒットについての
Columnを書いてきましたが、次回のテーマも
いくつか候補が上がっているので
緊急事態宣言で家にいる時間が多い今、
出来ることを私もやっていこうと思います。

それでは、皆様本当に
コロナウイルスに気をつけてお過ごしください。
またここでお会いしましょう!